婚姻費用分担
解説
婚姻生活を維持するための費用(一般的には生活費)を婚姻費用と呼び、夫婦は婚姻費用を相互に分担する義務を負います。婚姻費用の分担義務は、夫婦が別居していても、婚姻関係が継続している以上、無くなるものではありません。むしろ、夫婦が別居した場合に、婚姻費用の分担を求めることが多いと思われます。婚姻費用の算定については、養育料の場合と同様、算定表が活用されており、算定表を目安に決められることが多いといえます。
Q&A
私は、2年前に夫と別居しました。別居の際、夫から生活費として毎月3万円を受け取るという合意をしましたが、3か月前に勤務先を整理解雇されてしまい、なんとか新しい勤務先に就職できたものの、収入が以前より激減してしまいました。夫に対して生活費を増額するよう求めることを考えておりますが、一度決めた生活費の額を変更することは可能なのでしょうか。
いったん婚姻費用分担額(生活費)を定めたとしても、その後の経済情勢や支払権利者または支払義務者の事情の変化によって定められた額が実情に合わなくなることがあります。この場合には、婚姻費用の増額または減額を求めることができます。ご質問のケースですと、勤務先の解雇による転職で収入が激減したという事情の変化がありますので、夫との協議や調停または審判の申立てをすることで婚姻費用分担額の増額が認められる可能性があります。
私は、夫と別居して3年が経ちます。別居中、夫から全く生活費を受け取っていないので、婚姻費用分担の調停を申し立てようと考えています。調停においては、どの時点からどの時点までの婚姻費用の請求をすることができるのでしょうか。
調停においては、申立時を婚姻費用(生活費)支払いの始期とすることが通常ですので、原則として、申立時から離婚時または別居関係の解消時までの婚姻費用を請求することができます(なお、次のQ及び、その次のQを参照)。
私は、1年前に子どもを連れて夫と別居しました。夫との間で別居時に毎月7万円の生活費を支払ってもらう約束をしましたが、これまで一切生活費を受け取っていません。しかし、自分1人の収入では生活が苦しいので、夫に対し、別居してからの分も含めて生活費を請求したいと考えていますが、可能でしょうか。なお、離婚は考えていません。
別居開始時から請求時までの婚姻費用の未払い分(過去の婚姻費用の未払い分)は、相手方との間で合意が成立し、これを証明することができれば、請求は可能です。
私は、夫と2年前に別居していますが、関係の修復は不可能なので、離婚を決意しました。別居中、夫から生活費を全く受け取っていなかったので、夫に対し、未払いの生活費の支払いを求めたいと思いますが、可能でしょうか。
過去の婚姻費用の未払い分は、財産分与の際に考慮される事情となりますので、財産分与として、過去の婚姻費用相当額の分与が認められる場合があります。
私は、4年前に男性と浮気をして、子どもを連れて夫と別居しました。しかし、2年前に浮気相手の男性と別れてしまい、現在は、アルバイトで収入も少ない状況です。他方、夫は、私と別居後、事業に成功し、かなりの収入があるようです。子どものことを考え、夫に対し生活費の請求をしたいと考えていますが、別居の原因を作った私が生活費の請求をすることが出来るのでしょうか。
夫婦間に子がいる場合、婚姻費用(生活費)のなかには、子の養育料も含まれます。両親は、子に対し自分の生活を保持するのと同程度の生活を保持させる義務がありますし、そもそも子が夫婦間の別居に対する責任を負うことはないので、婚姻費用のうち、子の養育料相当分については、別居の原因が自分にあるとしても請求が認められると考えられます。
他方、配偶者自身の生活費については、婚姻費用の分担は夫婦の同居協力扶助義務(民法752条)と表裏一体の関係といえるので、不貞行為などがあり同居協力扶助義務に著しく反していることが明らかである(別居の原因につき一方的に責任があることが明らかである)場合には、婚姻費用のうち配偶者生活費分について、通常よりも減額されることが考えられます。他方、同居協力扶助義務に著しく反していることが明らかとまでいえない場合(別居の原因につき一方的に責任があることが明らかとまではいえない場合)には、通常の場合と同様の額の分担請求が認められると考えられます。