震災被害
解説
平成23年3月11日に発生した東日本大震災によって、福島県では強い地震により建物を中心に多くの被害が出た他、沿岸部では大規模な津波による被害が発生しましたが、同時に様々な法律問題も発生することとなりました。ここでは、震災によって発生した様々な法律問題のうち、代表的なものについて簡単に説明いたします。
Q&A
今回の震災で、隣家の塀が倒れ、私の家の駐車場に停めてあった車が損傷しました。塀の所有者である隣人に、損害の賠償を請求した場合、認められるでしょうか。
今回の震災では、福島県内の多数の建造物に被害が出たため、こうしたことでトラブルになっているケースも多かったようです。
一般に、土地上に人工的に設置された物の「設置又は保存」に欠陥(瑕疵)があったため、他人に損害が生じた場合、その工作物を管理していた者(占有者)ないし工作物の持ち主(所有者)は、損害を賠償しなくてはなりません(民法717条1項)。
ご質問のケースでは、隣家に住む隣人の所有する隣家の塀が倒れたようですので、塀の「設置又は保存」に欠陥(瑕疵)があれば、あなたの隣人に対する損害賠償請求は認められる可能性があります。
もっとも、塀の「設置又は保存」に欠陥(瑕疵)があるかどうかについては、簡単には判断できません。
欠陥(瑕疵)とは、その種の工作物として通常備えるべき安全性を欠いている状態を指していると考えられていますが、今回の震災のように、非常に広い範囲で強い揺れを生じた地震では、欠陥のない工作物であっても壊れる可能性があります。
したがって、塀の「設置又は保存」に欠陥があったかどうかについては、争いになると、最終的には裁判所の判断を待たなくてはならない可能性もあります。
今回の震災によって発生した津波により親族が行方不明となりました。行方不明の親族の財産を誰がどのように管理したらよいのか分かりません。どうしたらよいでしょうか。
本人が住所地を離れて行方不明となった場合(不在者)であっても、法律上当然、不在者の財産を管理する権限のある者(親権者や後見人など)がある場合は、その者が財産の管理を行うことになります。
これに対して、不在者の財産を管理する法律上の権限のある者がいない場合、家庭裁判所は利害関係人又は検察官の請求により財産の管理について必要な処分(配偶者を不在者財産管理人の選任する等)を命ずることができます(民法25条~29条)。
借家に住んでいますが、棚の上に置いていた物が震災で落ちて床に傷がつきました。修繕費を払わなくてはならないでしょうか。
置き方が適切であったかどうか等の具体的な状況によって異なりますが、置き方が不安定で、簡単に落ちて床を傷付ける状態であった等の事情がなければ、賠償責任を負わない可能性があります。
通常、賃貸借では、借り主が通常の使い方をしていても発生すると考えられる損耗・毀損は貸し主の負担とされています。
ご質問のケースでは、物の置き方がどのようであったか不明ですが、置き方が適切であったにもかかわらず、地震によって床に物が落ちたという場合は、「借り主が通常の使い方をしていても発生すると考えられる損耗・毀損」として、借り主は賠償責任を負わない可能性があります。
分譲マンションに住んでいます。地震で上の部屋の配管に損傷が生じたらしく、水道が回復したところ階下にある私の部屋に水漏れが生じました。賠償責任を請求して認められるでしょうか。
地震前から配管が老朽化しており、配管として本来備わるべき安全性を備えていなかったという場合には、配管の占有者または所有者への損害賠償請求が認められる可能性があります。これに対して、配管が本来備えるべき安全性を有していたにもかかわらず、激しい地震により損傷が生じたという場合には、損害賠償請求は認められません。
震災による隣人とのトラブルを解決したいのですが、どのような制度を利用したらよいでしょうか。
まずは訴訟制度の利用が考えられますが、隣人とのトラブルの場合、話し合いによる柔軟な解決が結果的に双方にとって好ましい結果となることもありますので、簡易裁判所の調停や弁護士会の原子力発電所事故被害者救済支援センター手続(ADR)のような、第三者に間に入ってもらって話し合いによる解決を目指す手続の利用も検討してよいと思われます。